
「体の声を聞く」水泳哲学:楽に美しく泳ぐための本質
従来の指導法と体の声を聞く方法の違い
川崎氏が指摘する水泳指導の課題は、多くのスイマーが「正しい」フォームを追求するあまり、脳からの一方的な指令で体を動かそうとする点にあります。彼の哲学では、体が自然と選ぶ動きこそが、その人にとって最適な泳ぎ方だと考えます。
脳の指令による限界
「肘をこう曲げなさい」「足をこう蹴りなさい」という脳からの指示は:
- 体の本来の動きを無視している
- 自然な動作の流れを阻害する
- 無理な動きを強制することで効率を下げる
- 長続きしない(練習中は意識できても実際の泳ぎでは変化する)
体の声を聞くとは具体的に何か
川崎氏の言う「体の声を聞く」とは:
- 現在の自分の泳ぎ方をまず観察する
- 体が自然としている動きを尊重する
- 動きを強制せず、体が「行きたい方向」を感じ取る
- その上で、より良い動きが生まれる「環境」を整える
日常生活からの具体例
私たちは日常動作で既にこの原則を実践しています:
- プールから上がるとき:無意識に最適な肘の角度や力の入れ方を体が選んでいる
- ドアを開けるとき:「肘を何度に曲げる」という計算なしに自然に適切な動きができる
- 走るとき:膝の曲げ角度を意識せず体が状況に応じた最適な動きを見つける
環境調整のアプローチ例
「キックを減らしたい」場合の考え方:
- 「キックをするな」と命令するのではなく
- なぜキックが多くなるのか(体のバランス、姿勢、呼吸のタイミングなど)を観察
- 体が自然とキックを減らせる状況(姿勢の改善、体の使い方の変化)を作る
- 結果として、命令なしに自然とキックが減っていく
肘の曲げ方の例
模範泳者の動きをただ真似るだけでは効果的でない理由:
- 他人の肘の曲げ方をそのまま真似ても、自分の体の特性や感覚と合わない
- 脳からの「こう曲げろ」という指示だけでは、水の抵抗を感じ取る繊細さが失われる
- 代わりに、水をしっかり捉える感覚を大切にし、その結果として肘が自然と適切な角度になる環境を作る
実践のためのステップ
- まず自分の現在の泳ぎ方を観察し、体がどう動きたがっているかを感じる
- 体の各部位(腕、足、胴体など)がどう動きたいのかに注意を向ける
- 強制的な修正ではなく、より良い動きが自然と生まれる環境や条件を探る
- 水との関係性、体のバランス、リラックス状態を優先する
- 小さな変化を通じて体が自ら最適な動きを見つけられるよう導く
川崎氏の哲学は単なる泳法だけでなく、体と心の調和、そして自然との関わり方についての深い視点を提供しています。それは「正しい」フォームを外から強制するのではなく、内側から湧き出る自然な動きを尊重することで、より楽に、より美しく、より長く泳ぎ続けられる道を示しているのです。